デア・リング東京オーケストラの第2回公演(2019年9月4日)と第6回録音(同9月5日)が無事終わりました。シューベルトの「未完成交響曲」とブルックナーの交響曲第7番を演奏したのですが、奇しくも9月4日はブルックナーの195回目の誕生日、9月5日は交響曲第7番がブルックナーゆかりのリンツ郊外、聖フローリアン修道院で完成した記念の日にあたっていました。
そんな中、ブルックナーの交響曲第7番が上岡敏之指揮新日本フィルハーモニー交響楽団で9月5日(サントリーホール)と8日(横浜みなとみらいホール)の両日演奏されました。5日はDRTの録音当日でしたので、8日の演奏を横浜で聴いてきました。
前半はシューベルトの交響曲第4番「悲劇的」、後半がブルックナーの交響曲第7番でDRTと同じハース版での演奏です。DRTがシューベルトの「未完成」との組み合わせでしたので、よく似プログラムですね。
全体的にはアンサンブルの精度が高く、調和のとれた音色も相まってすばらしい演奏を堪能しましたが、私もシューベルトとブルックナーを指揮したばかりなので、感じいったところも多くそれらについて少し述べたいと思います。
私の席は舞台を真横から見下ろせる下手の2階のLAでしたので、指揮者の動きや、指揮者とオーケストラの関係が手にとるようにわかりました。
まず、シューベルトですが、上岡さんはそんなには棒を振り回さない指揮者ですが、指揮棒や体の動き、そして表情の変化も総動員して、細部にいたるまでどのように演奏して欲しいかをオーケストラに的確に伝えていました。楽器の入りもほぼすべてキュー出していました。シューベルトのような古典でも随分こまく指示をだしているのだなあというのが第一印象ですが、これが指揮者の役目だと一般的には思われていると思いますし、オーケストラからも聴衆からもこのような細やかな指揮が期待されているのでしょう。
一方、私の場合は「未完成」では大きな音楽の流れのみを示すようにしました。8つの木管クィンテットを前面に並べる特殊な配置もありますが、楽器の出はほとんど指示していないというよりできないわけです。ちなみに私は指揮棒は使用しませんでした。
休憩後はいよいよブルックナーの7番です。冒頭は弦の32分音符のトレモロで始まりますが、新日フィルはあまりにも弱音でほとんど聞き取れませんでした。どんなに弱音でもホールに響かない音を使うのはどうでしょう?
第1楽章は2分の2拍子です。基本は2つ振りですが、Bから管が8分音符で刻むところ(譜例1)や、I(譜例2)からのチェロのSOLIなど上岡さんは明確に4つ振りで通しました。一方私は終始2つ振りで1楽章を演奏し、BやIなどの入りは瞬間的に4つ(2拍子の分割)で振りましたが、すぐに2つ振りに戻しました。
あと大きく違うのは最後の四分音符です。上岡&新日フィルは弾き直して強奏で終えます。この方法が一般的だと思いますが、管楽器の多くは10小節前からコードを吹き続けているので、DRTではそのままの音量でアクセントをあえてつけないで空間に余韻を残し、2楽章へと繋がるようにしてみました。(譜例3)
第2楽章はクライマックス(W)でシンバルとトライアングルを入れるかどうかはアド・リブ(自由)ですが、デア・リング東京オーケストラはシンバルとトライアングルを入れ、新日フィルは入れていませんでした。シンバルとトライアングルの奏者はここの1発のために命をかけるわけです。(右の譜面参照)
このクライマックスを抜けたX(譜例5-1 5-2)からのワグネル・チューバからはじまり、ホルンの絶唱を経て最後(219小節)までをブルックナーはワーグナー追悼の曲として作曲しました。
終世尊敬していたワーグナーの訃報が7番の作曲中にヴェネチアからもたらされたからです。
いずれにせよ。第2楽章は冒頭から終始祈りの曲だと思います。4拍子で4つ振りが基本ですが、DとPからは3拍子でモデラーとなりますが、上岡さんはここを6つに振っていました。(譜例4)
第3楽章はSehr Schnell (ものすごく速く)です。その指示通りDRTは限界まで速く演奏しようと試みました。トリオはティンパニーがリズムを刻んで始まるので、演奏会ではここから指揮をしないでオーケストラにすべてを託し(譜例6)、Da Capo で冒頭に戻って楽章が終わるまでオーケストラにすべて任せました。この間私はずっと聴いていましたが、3楽章が一番良かったと友人のひとりが終演後、私につぶやきました。
第4楽章はBewegt doch nicht schnell(動きをもって、しかし急がないで)の指示があります(譜例7)。「動きをもって」をどう捉えるかですが、上岡&新日フィルはテンポを終始変化させていました。一方のDRTはテンポは基本的には変えず複付点のリズムを終始保つことで動きを表そうとしました。複付点のリズムを保つのは結構大変で、リズムが甘くなって複付点ではなく付点になりがちです。(譜例8など)
全楽章を通じて上岡さんはどこもわかりやすく振っていて、演奏は極端にいえば棒のとおり演奏すれば上岡さんの意図通りの演奏ができると思います。こういう棒をオーケストラ、そして聴衆は期待しているのだなあと改めて思った次第です。拍手もなかなか鳴り止みませんでしたので、聴衆は満足し、オーケストラにとっても会心の演奏だったと思います。
一方の私は、楽器の入りの指示は全くしないし、分割したり振り分けも最小限にし、時には振ることすら辞めるので、奏者の皆さんからよく言われますが、オーケストラはとても疲れると思います。それはオーケストラのひとり一人が常に全体の流れ(特にハーモニーの流れ)と自分の役割を自身の判断で感じながら、独立自尊の精神で自発的に演奏して欲しいとの思いからです。そしてオーケストラから音楽が溢れ出す瞬間が訪れれば、聴衆も奏者も会場にいるすべての人が共に幸せな時を共有できると思うのです。
西脇義訓
2019-9-9
Der Ring Tokyo Orchestra
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