デア・リング東京オーケストラの第一弾、ブルックナーの交響曲第3番は全員前を向いて演奏しています。
これは、オーケストラとホール双方の空間力を視覚的にあらわそうと試みた配置です。
従来の指揮者を中心とする半円形ではないので、統率された演奏ができないのではと疑問に思われる方も多いと思います。はじめてこの配置を経験した演奏者の多くも当惑していました。しかし、結果はむしろ演奏しやすかったというメンバーがほとんどでした。
そもそも演奏しやすいと思われている半円形のオケでも、左翼の第1ヴァイオリンや、右翼はヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリンと色々なケースがありますが、後ろの方の外側の席に座れば、指揮の細かい動きはほとんど見えません。
人間の視野は何度あるでしょう? 実は意外と広くて180度ではないのです。一般的には200度あるとされているのですが、合気道や空手、そして古武道の世界では、呼吸を整え平常心を保つことにより、さらに視野が広がるといいます。一説によると30度も広がり、230度にもなるということです。逆に興奮し、いきり立つと視野はどんどん狭まります。
宮本武蔵などの剣豪は、呼吸を整え、目や耳だけでなくすべての感覚を全開にして、背後の気配も感じているので、四方から立ち向かってくる敵をつぎつぎになぎ倒すことができるのです。
200度というのも顔を固定した場合ですので、眼球も動かすことができるし、ちょっと首をかしげればもっと視野は広がります。前向きと言っても視野は思ったよりもかなり広いわけです。
さらに、視野は①視界(visual field)の他に、②「展望が開ける」(outlook)、③「交渉再開が視野に入いる」(come into view)、④「あの人は視野が狭い」(narrow vision)などとも使われますよね。
ですから、オーケストラも全員前向きにすることにより、ひとりひとりの視野はむしろ広がり、背面の気配も自然に感じるようになるので、演奏に支障がないばかりか大きく視野が開け、アンサンブルの新たな可能性が拓かれると思うのです。
前向きは文字どおり、ひとりひとりが前向きに演奏に向き合うということに通じると思います。
ブルックナーのオーケストラの配置については、バイロイトの配置を参考にしていますが、次回はそのことについてお話ししたいと思います。
2017-8-24
Der Ring Tokyo Orchestra
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