「至福のバイロイト・サウンド」で、バイロイト祝祭劇場のオーケストラ・ピットについてお話ししました。
私は2009年に初めてバイロイト体験をしましたが、その折に幸いにもオーケストラ・ピットに行くことができました。
長年、バイロイトのヴァイオリン奏者としてピットで演奏されてきた眞峯紀一郎さんに案内していただいたのです。
オーケストラは、舞台の下に階段上に深く潜るように配列されています。年によって少し並び方は違いますが、私の行った年を例にとって説明します。
オーケストラ・ピットは6段になっています。最上段は第1ヴァイオリン(右翼=下手)と第2ヴァイオリン(左翼=上手)ですが、通常とは全く逆の配置です。両ヴァイオリンからは舞台上の歌手が奥に行かない限りは視野に入ると思います。ビオラが2段目に7プルト(プルトは譜面台の意味)並び、1プルト目は指揮者に向かって座っています。
第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの8プルト目は、2段目のビオラの後ろにそれぞれいて、その下段(3段目)がチェロですので、弦はビオラを囲むように配置されており、これがバイロイトのアンサンブルの基礎を作っていると感じました。
第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンは同じ8プルトですが、両ヴァイオリンは同人数であるべきだと常々思っていました。
余談ですが、この日もテレビ収録されていましたが、よく見るとピットの天井から多くのマイクが吊りさがっています。また、客席の天井からマイクは下げられていません。
右の写真をご覧ください。バイロイトの客席からオーケストラ・ピットを覗き込んだところです。客席とピットはフードのような大きな壁で隔てられています。
第1ヴァイオリンが右翼にいるのは、左翼だとオケピの大きな壁に向かって演奏することになるからです。断面図も合わせてみていただくとピットの構造がわかりやすいと思います。
私は「ジークフリート」をこの壁の前、つまり客席の最前列で聞いたのですが、オーケストラは壁の向こうなので全く見えません。したがって直接音は一切なく、天井から降ってくる極上の響きに包まれます。
客席からピットの中は見えないので、オーケストラは燕尾服ではなく、普段着で演奏しています。現在はピットには空調が入いっていますが、少し前までは空調はなく、日によってはものすごく暑かったこともあったからでしょう。
客席は階段状に扇型に広がっているの
で、どの席からも舞台が遮るものがなくダイレクトに見えます。しかも舞台は図のように前方に向かって少し傾斜しています。
オーケストラが潜っているのは、視覚的にオーケストラを隠すためという意見も耳にします。確かにそれが一番の理由かもしれませんが、この機構が極上のオーケストラの響きを生み出すことにつながっていると思います。
ただ、指揮者は難しいです。このオーケストラはドイツをはじめヨーロッパ各地からワーグナーが演奏したいために毎年参加している熟達の演奏者ばかりなので、ワーグナーのことは知りつくしています。
ここで良いところを見せようと張り切ってバイロイトの指揮台に乗り込んで大失敗し、途中で降板になったり2度と呼ばれなかったりする指揮者もいると眞峯さんからお聞きしました。
話しが長くなりましたが本題に戻すと、デア・リング東京オーケストラは、バイロイト・サウンドをひとつの理想としているので、第一弾のブルックナーの交響曲第3番ではバイロイトに倣ってオーケストラを配置しています。
右翼に第1ヴァイオリン(青)、左翼に第2ヴァイオリン(赤)、両ヴァイオリンのうしろはヴィオラ(水色)、さらにそのうしろにチェロ(赤)を各1列に並べています。コントラバス(白)もバイロイトのように両翼に配置しています。
(色)はバイロイトの場合です。
両方の配置図を参考にご覧ください。
メンデルスゾーンがライプチヒ・ゲヴァントハウス・オーケストラの音楽監督になった当初は第1ヴァイオリンが右翼、第2ヴァイオリンが左翼とバイロイトと同じだったということです。
最近のゲヴァントハウスは、第1ヴァイオリンが左翼、第2ヴァイオリンが右翼です各8プルト同数で、左右にコントラバスが分かれて配置されることもあります。
ワーグナーは誤解されているとかねがね思っていました。
それは、ベームのバイロイト・ライブを聴いて以来の疑問でした。
バイロイトの録音はオーケストラの近くの音を録っているので、会場の響きとは違うのではないか?
40年を経て実際に聴いたバイロイト・サウンドは、私の想像していた通りの響きに包まれます。
ですから、特に指揮者はバイロイトを体験しないでワーグナーは演奏すると、根本的に方向を間違えると思います。
26Aug.2017
Der Ring Tokyo Orchestra
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